減価償却のきほん:なぜ購入費用を分割して経費にするのか?
■はじめに:減価償却とは「費用と収益の対応」です
- 高額な機械や社用車を買ったとき、「全額その年の経費にしたい!」と考える社長は多いでしょう。
- しかし税法上、高額な固定資産の費用は、購入した年に一度に経費にできません。
- その代わりに、何年にも分けて少しずつ経費にするルールがあります。これが減価償却です。
■なぜ購入費用を「分割」する必要があるのか?
減価償却が必要な最大の理由は、「費用収益対応の原則」という会計の基本的な考え方に基づいています。
1、購入した資産は「何年も利益を生み出す道具」だから
- 例えば、1,000万円の機械を購入したとします。この機械は、その購入した年だけでなく、その後何年間にもわたって製品を作り、売上(収益)を生み出し続けます。
- 会計のルール: 収益(売上)を得るためにかかった費用は、その収益が発生したのと同じ時期に対応させて計上すべき、とされています。
- もし購入した年に全額経費にしてしまうと、機械が利益を生み出した翌年以降は「経費ゼロ」になり、正しい経営成績(利益)が分からなくなってしまいます。
【イメージ】費用と収益の対応
- 機械が利益を生み出す期間(耐用年数)に合わせて、購入費用も分割して経費(減価償却費)にする。
2、 会社の真の「実力」を正しく把握するため
- 減価償却をすることで、その期間にどれだけの価値を消耗したかが費用として計上されます。
- これにより、経営者は毎年の正しい利益を把握し、設備投資の判断や来期の事業計画を正確に立てることができます。
- 金融機関や株主などの外部に対しても、会社の健全な経営状況を示すことができます。
■ 知っておきたい減価償却の3つのきほん
1、 対象になる資産とならない資産
- 対象になるもの(固定資産):
- 建物、機械装置、車両運搬具、器具備品など。
- ポイント: 10万円以上で、1年以上にわたって使用するものです。
- 対象にならないもの:
- 土地(何年経っても価値が減らないため)、書画骨董(美術品など、価値が下がらないもの)。
2、 費用にできる期間=「耐用年数」
- 資産の種類(機械、車、パソコンなど)や用途に応じて、「この資産は何年使えるか」という法律で定められた使用可能期間があります。これを法定耐用年数といいます。
- 例:一般的な新車の乗用車は6年、サーバー用のパソコンは4年など。
- 社長が勝手に「うちの機械は10年使う!」とは決められず、この法定耐用年数に従って費用を分割していきます。
3、 節税対策のキモ:少額減価償却資産の特例
- 高額な資産は分割が原則ですが、中小企業には便利な特例があります。
- 少額減価償却資産の特例: 30万円未満の器具や機械については、特例を使えば全額を一括で経費にすることができます。(年間合計300万円まで)
- 【11月の活用法】 年末に利益が出すぎている場合、この特例を利用できる30万円未満のパソコンや備品を11月~12月に購入することで、その年の利益を圧縮する有効な節税対策になります。※ただし、償却資産税の対象になるので、注意が必要です。
■まとめ
減価償却は、単なる税金の計算ルールではなく、「会社がどれだけ真面目に利益を稼いだか」を正しく表すための重要な会計ルールです。
この仕組みを理解し、特に年末の少額減価償却資産の特例を賢く活用することで、健全な経営と計画的な節税に繋げましょう。

